ビオディナミについて
よくあるご質問|Q&A

Q. ビオディナミって、有機栽培と何が違うの?

A. 有機栽培は「農薬や化学肥料を使わない」ことを主な目的とする農法です。
一方、ビオディナミはさらに一歩踏み込み、“畑そのものの生命力を高める”ことを重視します。

月の満ち欠けや星の運行といった自然のリズムに合わせて作業を行い、プレパラシオン(自然素材からつくる調合剤)によって土壌の健全性を整えていきます。

人間で例えるなら、「薬で治す」のではなく、「気から整えて、病気になりにくい体をつくる」──。

ビオディナミとは、そんな農法です。

ビオディナミで育まれた、ドメーヌミカヅキのアルバリーニョ。

Q. ビオディナミって、手間もコストもかかるんじゃない?

A. 一般的にはそう言われます。ですが、当園のある陸前高田では、自然にビオディナミ向きの条件が揃っているため、導入コストを抑えやすいという利点があります。

具体的には:
• 水晶を含む花崗岩の土壌
• 牛の角や水源など、調合剤づくりに必要な自然資源の存在


また、以下のような仕組みも活用し、“手間”を“価値”に転換しています:

• WWOOF(ウーフ|Worldwide Opportunities on Organic Farms)
国内外の参加者が、有機農業を体験する代わりに、宿泊と食事の提供を受ける制度。国際交流や地域とのつながりを生む仕組みとして注目されています。
▶︎ WWOOFジャパン公式サイト https://www.wwoofjapan.com/home/index.php?lang=jp

• 農福連携
当園では、陸前高田市の就労支援事業所「朝日のあたる家」(運営:一般社団法人みらい創造財団)とモデル立ち上げ当初から連携し、草刈りや収穫などの作業を委託。全国ネットワーク「FCFR(Farming & Community for Future Renaissance)」とともに、地域に根ざした持続可能な仕組みづくりに取り組んでいます。農業と福祉の架け橋となる“農福連携”を推進しています。
▶︎ 朝日のあたる家|https://fcfr-asahi.jp


さらに、公共支援(自社資金主体で事業性を担保しています)や自己資金の活用、畑単位での段階導入によって、リスクを抑えた形で無理なく進めています。


ブドウ畑の土から、水晶が顔を出す── これは、ビオディナミで使われる調合剤「プレパラシオン501」に欠かせない素材。 陸前高田ならではの、氷上花崗岩の恵みです。
プレパラシオン500や501に使う牛の角は、岩手の誇る「前沢牛」のもの。 実は、前沢牛は山形牛や松阪牛としても流通し、松阪に行ったものは「出世牛」とも呼ばれます。 この角は、生産者にとっては処分に困るもの。 私たちは、それを無償で譲り受け、畑の生命力を高める資源として活用しています。

Q. 収量が落ちるっていうけど、本当にやっていけるの?

A. 有機やビオディナミでは「収量が落ちる」とよく言われますが、当園のアルバリーニョは病気に強く、他品種に比べて毎年の収量が安定しやすい品種です。

そのため、無理な防除をせずとも健全な果実が得られ、品質と効率のバランスがとりやすいのが特長です。

加えて、以下のような複合的な収益構造を設計しています:

• デメター認証による高付加価値販売

• ワイナリーツーリズムなどの体験型コンテンツ

• 自社ECや越境ECによる直販でのマージン最大化


つまり、「量」ではなく「価値」を重視したビジネスモデルです。

例:たとえば価格に換算すると…
慣行栽培で2,500円/本 →ビオディナミ+体験+直販で3,000〜3,500円/本へ
収量が8割でも、総収益は1.2〜1.6倍となる試算です。


ワイナリーツーリズムの一幕──鮨とワインのペアリング会。 ソムリエによる解説とともに、10種の鮨に10種のワインを合わせる贅沢な体験。 まるで“大人のアトラクション”のようだと、毎回ご好評をいただいています。

Q. デメター認証って、そんなにすごいの?

A. デメターは、世界でもっとも厳格かつ権威あるビオディナミ認証機関です。

わかりやすく例えるなら、「剣道の最高段位である八段にして道場主」といったところでしょうか。
ただの“強さ”ではなく、精神性と技術、そして歳月を重ねてたどり着く“人格としての完成形”。


信頼と実績

• フランスやドイツの名門シャトーも多数取得
• 「自然派品質の最高峰」として世界で認知
• 高級百貨店や専門インポーターが指名買いするほど

価格面の優位性

• フランスでは同じ品種でも20〜50%上乗せが一般的
• 日本でも百貨店・専門店で通常の1.5〜2倍の販売価格に
• 日本初であれば、“その希少性”自体がプレミアム

輸出や越境ECに圧倒的有利

• デメターはEUの販路で高評価&条件緩和あり
• 「日本で唯一」の訴求力は海外PRでも圧倒的武器に


現在、日本では委託醸造や原料供給のかたちで、ビオディナミに取り組む例がわずかに存在します。

しかし、栽培から醸造までを自社で一貫して行い、デメター認証を取得する──この水準に達したワイナリーは、まだ日本に存在しません。
そしてこれは、「やろうと思えば誰にでもできる」ものではありません。

気候・土壌・品種・人材・哲学──そのすべてが奇跡的に重なった場所と人にしか、成し遂げられない挑戦です。

私たちは、その可能性に導かれ、
「日本初」の挑戦に、覚悟を持って取り組んでいます。


【プレパラシオン500|ディナミゼ(攪拌)風景】 牛糞を角に詰めて冬季に埋め、春に掘り出すビオディナミの基本作業。 土壌を活性化させるこの調合剤は、自然のリズムとともに作用します。 (写真:2019年、当時26歳の及川が仏ワイナリーでの修業時に撮影

Q. なんでビオディナミ?流行に乗ってるだけじゃないの?

A. いいえ、流行ではありません。

この土地でやるなら、必然だった──それが私たちの答えです。


陸前高田の“奇跡的な一致”

• 水晶を含む氷上花崗岩土壌

• 湿度・風通しに優れた冷涼な気候

• 分散した畑(段階導入に◎)

• アルバリーニョとの相性

• “ミカヅキ”という象徴的な名前


これだけの条件が揃う場所は、国内外を探してもほとんどありません。

私たちは「選んだ」というより、「導かれた」と感じています。


地質マップを眺めると、岩手県だけ色が異なることに気づきます。 かつてゴンドワナ大陸の一部だった岩石が、日本列島に合体し、その大部分は太平洋に沈みました。 岩手に残されたのは、その“名残”ともいえる特異な地層。 だからこそ、岩手の土壌は、他とはまったく異なる“個性”を持っているのです。
ブドウ畑から現れる、陸前高田の「氷上(ひかみ)花崗岩」。 マントル近くの高圧環境で形成されたため、金を豊富に含むのが特徴です。 “金あるところに水晶あり”──その言葉の通り、畑からは水晶の結晶も顔を出します。 「金野」「紺野」「黄川田」「小金山」など、金山由来の名字が多い土地柄。 平泉・中尊寺金色堂の金も、かつてこの地から運ばれたと伝わります。
長い歳月をかけて、気仙川が花崗岩の地層を削り、運び、堆積させてできたのが、陸前高田を象徴する砂浜──高田松原。 その白く輝く砂浜は、「白砂青松」とも讃えられます。 実はこの“白砂青松”、花崗岩土壌があってこそ生まれる、奇跡の風景なのです。 私たちの名〈ミカヅキ〉は、この高田松原にちなんで名づけられました。
高田松原の砂を近くで見ると、花崗岩に含まれる水晶が、光を受けてキラキラと輝いているのがわかります。

Q. 地域とのつながりってあるの?

A. ビオディナミは、地域と外をつなげる力も持っています。

• 畑を訪れてみたくなる“理由”や“物語”がある

• 福祉施設との連携による農福モデル(単純作業との相性が良く、就労支援の一環としても取り入れやすい仕組み)

• 国際交流(WWOOF (Worldwide Opportunities on Organic Farmsの略))や観光プログラムによる関係人口の創出

単なる農法ではなく、地域に人を呼び込み、お金と交流が循環する起点となります。


箱根山テラスにて、全国から集まった参加者とともに行われた座学のひと幕
農福連携での植樹作業:事前に穴を掘り、苗をセットし、土かぶせを依頼

Q. 理想論ではなく、事業として成立しますか?

A. ロマンや理想だけで農業はできません。

私たちは、次のように現実的かつ収益性のある設計をしています:

• アルバリーニョという病気に強く安定収量の品種を選定

• 土壌・気候との適性を検証し、畑単位で段階導入

• 高単価モデル+観光・体験・ECで多層的な売上構造を構築

• 自己資金+公的支援による初期投資の低リスク化


さらに、デメター認証によるブランド価値と国際競争力を得ることで、国内外の販路拡大も視野に入れています。


陸前高田の姉妹都市である、アメリカ・カリフォルニア州クレセントシティ。 サンフランシスコでは陸前高田の物産展が開催され、ドメーヌミカヅキも主催メンバーとして初回から参画しています。 また、東日本大震災で多大なご支援をいただいたご縁から、シンガポールとも深い友好関係を築き、現地での物産展などを通じて国際交流と地域の魅力発信に取り組んでいます。
「クレセント」は英語で“三日月”を意味します。 東日本大震災で流された陸前高田の船が、時を超えて太平洋を渡り、クレセントシティの浜辺に漂着しました。 “震災の記憶”と”土地の記憶”、“海を越えたつながり”──その想いを込めて、私たちはこのワイナリーに「ミカヅキ」と名づけました。

終わりに|“風土 × 科学 × 物語”という選択

この土地には、地層・気候・歴史・文化──

多層的に重なる“物語”があります。

私たちは、そこに科学と持続可能性を掛け合わせることで、

「ただのワイン」ではない価値を生み出したいと考えています。

そして、日本ワインに新しい次元を。

それが、ドメーヌミカヅキの挑戦です。